譲れない想い




「・・・・完全に迷ったよね・・・・・。」

「うん・・・・・。」

「やっぱり、やめとけば良かったなー・・・・。」

今更ながら己の浅はかさに自己嫌悪に陥ったカリンは、はあっ・・・・と一つ大きな溜め息をつく。

行けども行けども抜ける事の出来ない洞窟迷路。

頼りはランプの明かりのみというこの状況で、彼女の心細さはピークに達しようとしていた。

「カリン、これ以上先へ進むのは危険だよ。今日はここで休もう。」

「うん・・・・分かった・・・・。」

さすがのカリンもアルの言葉に従わざるを得ないと思ったのか、素直に頷いた。



宝を探す為に入った洞窟だったが、すぐに見つかるだろうと軽い気持ちでいたカリンは、

思いもよらぬ入り組んだ内部に苦戦させられた。

結果、道が分からなくなってしまい今に至るという訳である。



「・・・・まずいな・・・・。」

「なっ・・・・何っ!?何っ!?」

ただでさえ不安な所に追い討ちをかけられるように聞こえてきたアルの言葉に、カリンは

必要以上にびくびくしてしまう。

「ランプがもうもたないかも・・・・・。」

「ええええええぇぇえええ!!!???」

幼少期のトラウマから暗所恐怖症である彼女にとって、それは致命的であった。

「ど・・・・どうしよう・・・・・。」

「カリン、こっちへ。」

既に涙目になっているカリンを休ませる為、アルは洞窟内の一角に毛布を用意した。

それほど大きなものでは無かったが、二人で休息をとるには充分である。

尽きかけた炎を目の前にして、アルとカリンは並んで腰を下ろした。

「カリン、大丈夫?」

「う・・・うん・・・・。」

そうは言うものの、だんだんと暗くなっていく洞窟内を見渡したカリンの体は僅かに震えている。

本当は叫びだしたいほど怖かった。

それでも、一人じゃないという事実がカリンの心を何とか保たせていた。



とにかく落ち着こうと深呼吸をしたその時、ふと、カリンの手に温かな感触が添えられた。

「アル・・・・。」

「大丈夫、僕がいるよ。ずっとこうして手を握っていれば、きっと怖くないから。」

普段の彼からは考えられない程、いざという時には頼りになる人。

その優しい瞳の微笑みに、カリンはゆっくりと緊張を解いていった。

「絶対に・・・・離さないでね・・・・。」

「もちろん。」

固く手を握り合い相手の体温を感じながら、二人は寄り添いあう。

カリンはアルの肩口にそっと頭を預けて目を閉じていた。

やがてランプの炎がチチッと音を立てたかと思うと辺りがフッと暗くなり、洞窟内は

完全な闇に支配された。



「静かだね・・・・・。」

「うん・・・・。」

音も光も閉ざされた世界にこだまするのは二人の声だけ。

まるで別世界に迷い込んだように、不思議な感覚だった。

「カリン、寒くない?」

「ん、平気・・・・。」

外の気温に比べ、この洞窟内はかなり寒く感じられたアルは、カリンを気遣うように更に体を寄せた。

「アル・・・・。」

「うん?」

「変な事したら承知しないからね。」

途端、ガバッと体を離したアルが焦ったように叫ぶ。

「ぼっ・・・・僕は別にそんな事これっぽっちもっっ・・・・・っ!!」

心外だ!とでも言うように叫んだ彼の顔が、暗闇の中でもきっと真っ赤になっているだろうと

容易に想像できて、カリンは思わず吹き出してしまった。

「冗談だって。でも、そこまで否定されるとさすがに傷つくなぁ・・・。やっぱりボクには

魅力が無いんだね・・・・。」

「そ・・・・そんな事無いっ!」

カリンの耳に一際大きなアルの声が響く。

繋いだままの手を更に強く握り締められて驚くカリンのすぐ側で、アルはゆっくりと囁き始めた。

「カリンは、とても魅力的だよ・・・・。僕はいつだってそう思ってる・・・・。今だって・・・・・

凄くドキドキしてる・・・・。」

「・・・・本当に・・・・・?」

「うん・・・・本当に・・・・。」

闇の中でも、アルが優しく微笑んでいるのが分かる。

いや、顔が見えないからこそ、心の中が見えてくるのかも知れない。

「カリンは、カリンのままでいいんだ。そのままの君が・・・・僕は好きだよ・・・・。」

「アル・・・・。」

「カ・・・・カリン!?・・・・あの・・・・・・っ」

突然自分の首に回された柔らかな腕の感触に、アルはますます真っ赤になっていく。

そんなアルの焦りを余所に、カリンはそのぬくもりを確かめるかのようにお互いの体を

ぴったりと密着させた。

「アル・・・・有難う・・・・・。アルに逢えて、ほんとに良かった・・・・。大好きだよ・・・・・。」

「カリン・・・・。」

カリンの背にゆっくりと腕が回されて、そっと抱き締められる。

知らぬ間に恐怖は跡形も無くなり、あるのは切なくて甘い幸せだけとなっていた。





交わされた静かな想いが二人の心を優しく満たす。

それはまだ淡く小さな恋だけれど、やがて抱えきれぬほどの大きな愛へと変わっていくのだろう。



夜が明ければ、二人はまた冒険への道を進んでゆく。

今はただ、しばしの穏やかな休息を・・・・。




END





秋葉結衣さまのサイト、藤華楼の11111を踏んで
キリリクさせていただいたファーランドサーガ 時の道標のノベルです。
結衣さまのサイトの1周年記念でリクエストさせて頂いた壁紙イラストを
ネタにして,アルとカリンのお話をお願いしました.
(挿絵がそのイラストです.元サイズはこちら

壁紙イラストのリクエストは、「洞窟内でのラブラブな二人」でした.
いつもカリンに怒鳴られっぱなしのアル君ですが,
ここぞというときには一番頼りになるんですよね♪
なのに,本編ではちっともラブラブな場面がなかったので...
アルなんてOPの登場人物紹介のところで
「好きなもの:カリン」って書いてあるのに!!!

結衣さま、ありがとうございました♪



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