側行く君


「こんな所にいらしたんですか。」
王城から西の位置にある森。
その中にあってひときわ美しい輝きを放つ湖のほとりに、エレノアはいた。
「ディーノ・・・。」
「探しましたよ。王宮の何処にも見当たらなかったので。」
「ごめんなさい。余計な手間をとらせてしまったわね。」
「いえ、そのような事は。」
ディーノに対して気遣いの態度を見せるエレノアに、彼は少し焦ってしまった。
自分にだけは、よそいきの顔をして欲しくはなかったから・・・。
「ちょっとね・・・考え事をしていたのよ。」
「考え事・・・ですか?」
そう言って髪を少しかきあげたエレノアは、夕陽の中に浮かび上がってひどく幻想的に見えた。
ディーノは今までにこれほど美しいと思える女性に出会ったことはない。
もちろん経験豊富という言葉からも遥か遠い場所にいる男だ。
「此処にいるとね、自分の事をいろいろと考えるの。王族としての私。戦士としての私。それから・・・」
「・・・・それから・・・・?」
「一人の・・・・女としての私・・・。」
「エレノア様・・・。」
「ふふっ。おかしいわよね。ダークプリンセスとまで呼ばれた私が、こんな事いちいち悩んでるなんて。」
「・・・そのような事・・・。」
自嘲気味に言い放つエレノアに、ディーノは言葉を失った。
「いいのよ、無理しなくても。国王として兄がこのフェルサリアに帰る時、私も妹として迎えられたけれど、全ての人に受け入れられてる訳ではないって分かっ てるから・・・。」
「エレノア様・・・・私は・・・・」
ディーノが言葉を紡ごうとした時、木にもたれ掛かって座り込んでいたエレノアがふいに立ち上がり、パンパンと服の汚れを落としながら彼の言葉を遮るように 言った。
「そういえば、私に何か用があったんじゃないの?」
「あ、ええ・・・。実はアーク・・・国王陛下が・・・。」
「兄が?」
うまくはぐらかされてしまったディーノだが、気を取り直して本来の用件を伝えた。
「・・・エレノア様にきている山のような求婚に対して、あなたの意思はどうなのかと、聞いて来るように言われまして・・・。」
ディーノはバツが悪そうに瞳をそらしながら言いよどんだ。
「そう・・・。兄が・・・。」
「・・・エレノア様は・・・あの求婚者の方々の中に、どなたかお好きな方がおられるのですか・・・?」
そう言って瞳をそらしたままのディーノを、エレノアはじっと見つめた。
「・・・私の事より、あなたの方はどうなの?知ってるわよ。王宮魔術師として一見とっつきにくいように見えるけれど、あなたに好意を持つ女性が沢山いる事 を。」
エレノアの言葉に驚いたディーノは、弾かれたように彼女を見た。
「私はっ!・・・・私には好きな相手以外からの好意など迷惑なだけです。
愛する人だけが振り向いてくれれば、それだけでいいんです・・・。」
ディーノはエレノアの瞳を見つめたままで自分の想いを語った。
「・・・・あなたの伴侶となれる人は、とても幸せね。こんなに情熱的に想ってもらえて。」
エレノアは少し寂しそうに言いながら瞳を伏せた。
縁取られた長い睫毛を震わせながら。
「・・・本当に・・・そう思われますか?」
「ええ、もちろんよ。」
「では、エレノア様。あなたはこれから一生幸せだという事ですね。」
「・・・えっ・・・?」
思いもよらなかったディーノの言葉に、エレノアは耳を疑った。
彼は今、何と言ったのか。
「あの・・・ディーノ・・・?」
「あなたとは身分がつり合わない事は分かっています。それでも私はあなたをあきらめられない。どうか・・・私の妻になって・・・いただけません か・・・?」
エレノアは、にわかには信じられなかった。
憎からず想っている相手が、まさか自分を選んでくれるとは。
真摯な瞳で愛の告白をしてくる魔術師の姿がだんだんとぼやけてくる。
「エレノア様・・・。やはり・・・私とではお嫌ですか・・・・?」
彼女はブンブンと首を振った。
「私っ・・・だって、本当に好かれてるなんて思ってなかったからっ・・・。
普段は、そんな素振りなんて無かったしっ・・・私なんて、眼中に無いのかとっ・・・!」
ポロポロと涙を零すその姿は、ダークプリンセスでもなければ、王女でもない。
ただの、愛を知った一人の女性だった。
「あの・・・それでは・・・」
「っ・・・喜んでっ・・・!」
「エレノア様!」
泣きじゃくる愛しい人を、ディーノは思い切り抱きしめた。
絶対に、このぬくもりを離すまいと。
「私の全てをかけて誓います。あなたを、生涯守ってみせると。」
きつく抱きしめられた腕の中で、エレノアは彼の顔を見上げて言った。
「私も誓うわ。私の全てをかけて、あなたを守る。」
夕陽に彩られた湖で、二人は厳かな口づけを交わした。
これから始まる、幸せな未来を思い浮かべながら。


数年後、彼らの間に子どもが生まれ、やはり冒険へと旅立つことになるのはまた後のお話。


エレノア19歳。ディーノ20歳。
二人の物語は、これから始まる。



END






秋葉結衣さまのサイト、藤華楼の10000を踏んで
キリリクさせていただいたファーランドストーリーのノベルです。
10000ヒットのお祝いとして差し上げたイラストをネタにして、
エレノアとディーノのラブラブ話をお願いしました。

リクエストは、
「近衛師団長として活躍し、掃いて捨てるほどの求婚を受けても、
自分の女性らしさにイマイチ自信のないエレノアと、
それを否定して 無意識にエレノアを口説くディーノ
(これでエレノアはディーノを意識し始める)。
そして数年後?めでたく結ばれる二人。」
というものでした。

私が考えたシチュエーション(イラストのページに掲載)
の数ヶ月後・・・と言う設定で書いていただけました。
もう、ラブラブで甘甘でとろけそうです〜。
奥手でクールなディーノ君が熱くなっている!
いけっ!そこだディーノ!告れ!ってな感じで
応援しながら読ませていただきました。


結衣さま、ありがとうございました♪


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